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心不全のおくすり
心不全とは

心不全は単一の疾患名ではなく、心臓の機能が低下し、全身の組織の代謝に対して必要量の血液を送ることができなくなった状態のことを言います。
ほとんど全ての心疾患が心不全に至る可能性があり、肺疾患(による肺高血圧)が原因となる場合もあります。その他、糖尿病や膠原病などによる心筋障害も原因となることがあります。
心不全になり、心拍出量が低下すると、呼吸困難、易疲労感、息切れ、浮腫、体重増加、食欲低下など、さまざまな心不全症状が起こります。意識障害につながることもあります。
心不全の治療は、血行動態の改善、症状の緩和、長期予後の改善を目的とした薬物療法が主体となります。

心不全の分類

症状や身体所見による分類・・・「左心不全」と「右心不全」

左心不全
 左心系の機能が低下し、肺循環系にうっ血が著明になるもの
 息切れ、頻呼吸、喘鳴などが起こりやすい

右心不全
 右心系の機能が低下し、体循環系にうっ血が著明になるもの
 浮腫、体重増加、胸水・腹水などが起こりやすい

進行速度による分類・・・「急性心不全」と「慢性心不全」

急性心不全
 急激に心不全症状が出てきたもの(時間~日単位)
 急激な心機能の低下を認め、呼吸困難やショック状態を呈する

慢性心不全
 慢性的に心不全症状があるもの(月~年単位)
 倦怠感や呼吸困難が持続し、運動耐容能が低下する

また、慢性心不全の状態から急激に悪化した場合は「慢性心不全の急性増悪」 と呼ばれます。
重症度評価や治療効果判定には、BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)が用いられます。

※BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)とは…
心臓で合成され分泌されるホルモン。心臓の負荷が増えたり、心筋の肥大が起こると血中濃度が増加する。

自覚症状による分類

自覚症状の重症度をあらわすものとして「NYHA心機能分類」があります。
主に慢性心不全の診療に用いられます。

重症度 NYHA分類 症状の程度
無症候性 Ⅰ度 心疾患はあるが、通常の身体活動では症状なし
軽症 Ⅱ度 普通の身体活動で、疲労・呼吸困難などが出現する
(通常の身体活動がある程度制限される)
中等症~重症 Ⅲ度 普通以下の身体活動で、疲労・呼吸困難などが出現する
(通常の身体活動が高度に制限される)
難治性 Ⅳ度 安静時にも、呼吸困難を示す
(安静時でさえ、心不全症状が出現する)
おくすりの種類

心不全診療ガイドラインでは、ARNI、β遮断薬、SGLT2阻害薬、MRAによる心保護効果が報告されており、これらの薬剤を心不全早期に導入することにより、心不全入院や悪化を減らすことが期待されています。
この4剤はファンタスティック4(Fantastic four:F4)と呼ばれ、F4をベースに、症状に合わせたお薬を使用します。

おくすりの種類 代表的なおくすり(商品名) くすりの働き
*基本的な注意事項
主な副作用
アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI) エンレスト アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)の作用に加えて、心臓に負担をかけるホルモン(ネプリライシン)の働きを抑え、心臓を保護する効果がある。
余分な水分・塩分を体の外に排出し、むくみを取る。
血圧低下
高カリウム血症
腎機能低下 など
β(ベータ)遮断薬 メインテート 心不全の病態を改善し、長期予後を改善する。
少量から用いられる。
めまい
ふらつき
頭痛 など
αβ(アルファベータ)遮断薬 アーチスト 心不全の病態を改善し、長期予後を改善する。
少量から用いられる。
めまい
ふらつき
頭痛 など
SGLT2阻害薬 フォシーガ
ジャディアンス
腎臓での糖の再吸収を抑え、過剰な糖を尿と一緒に排出させる。
また、糖尿病の有無に関わらず、心不全の長期予後を改善する。
*血糖コントロール不良や利尿薬併用の場合、利尿作用増強による脱水に注意が必要
低血糖
性器・尿路感染症
口渇 など
ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬
(MRA)
アルダクトン
セララ
アルドステロンがミネラルコルチコイド受容体に結合するのを阻害し、カリウムを保持しつつナトリウム排泄を促進する。
慢性心不全の生命予後改善のために用いられる。
高カリウム血症
女性化乳房 など
ジギタリス製剤 ジゴシン
ハーフジゴキシン
ラニラピッド
心筋の収縮力を強め、
速くなりすぎた脈を整える
*投与量のコントロールに注意が必要
ジギタリス中毒
(腎機能障害、食欲不振、低カリウム血症など)
ホスホジエステラーゼⅢ阻害薬
(PDEⅢ阻害薬)
アカルディ 心筋収縮力を強め、血管拡張作用をもたらす めまい
頭痛
悪心・嘔吐 など
アンジオテンシン
変換酵素(ACE)阻害薬
レニベース 血圧や心臓、腎臓に関係するアンジオテンシンというホルモンを減らすことにより血管を拡げ、心臓にかかる負担を軽減する。
また、心臓や腎臓での臓器保護作用も併せもつ。
咳(投与1週間~数ヶ月以内で出現するが、中止により速やかに消失)
めまい、頭痛 など
アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB) ブロプレス アンジオテンシンⅡが受容体に結合するのを妨げることにより血管を拡げ、心臓にかかる負担を軽減する。
また、心臓や腎臓での臓器保護作用も併せもつ。
ACE阻害薬が使用できない慢性心不全例に用いられる。
めまい
頭痛
腎機能低下 など
利尿薬 フルイトラン
ナトリックス
ダイアート
ラシックス
ルプラック
水の再吸収を抑制し、利尿(尿量の増加)を促すことでうっ血症状(肺うっ血、浮腫など)を改善する。 高尿酸血症
めまい など
バソプレシン拮抗薬 サムスカ バソプレシンという抗利尿ホルモンと拮抗して水の再吸収を抑制し、利尿を促す。
*脱水予防のため、こまめな水分摂取を心がけること
めまい
口渇
頭痛 など
HCN(過分極活性化環状ヌクレオチド依存性)チャネル阻害薬 コララン 心臓の洞結節に発現するHCNチャネルを阻害することで心拍数を低下させ心不全の悪化を防ぐ 脈が遅い
脈の乱れ
めまい など
可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激剤 ベリキューボ sGCを活性化させることで環状グアノシン一リン酸(cGMP)が合成され、血管緊張や心筋収縮、心臓リモデリングを制御する 低血圧
めまい
頭痛 など
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ハイブリッド手術室