私たちは普段、地球上に絶えず降り注いでいる宇宙線をはじめ、地中の岩石や食物などを通して体内に取り入れた放射性物質から放射線を受けています。自然から受ける放射線の量は年間2.4mSvで、その内訳は以下の通りです。
- 宇宙線などからの飛来:約0.38mSv
- 土壌からの放出:約0.46mSv
- 日常摂取する食べ物:約0.24mSv
- 空気中のラドンなどの吸入:約1.3mSv
これは日本の例で、ブラジルのガラパリに住む人は花崗岩大地から約10mSvの放射線を浴びています。しかし、そういう所に住む人々がガンにかかりやすいという統計データはありません。
放射線被ばくをしたという話をする時、量だけが話題になりますが、放射線のエネルギー、被ばくした(問題とする)部位と範囲も考慮しなければ人体への影響を論じる事はできません。
現在原爆の被災者やチェルノブイリ、東海村の原発事故のように大量被ばくではその影響はわかっていますが、医療で使用されているような少ないレベルではその影響は良くわかっていません。戦後60年経って被爆2世の健康状態はその他の人と変わりないらしいのですが、放射線の影響はないと言い切っているわけでもないようです。放射線生物学者の中には少量の放射線はかえって健康によいという「ホルミシス」説をとる方々もいますが、これもひとつの説でしかありません。
2004年1月に英国LANCET誌に診断用X線により発ガンリスクが増加するという論文が掲載され、内外に波紋を投げかけました。論文では、X線診断は大きな利益をもたらすこと、診断による被ばく量は通常少なく、個別の発がんのリスクはきわめて小さいことが最初に記されているのですが、報道では『発がんリスク増加』だけが強調されたためです。
この論文には多くの仮定を含んでおり、安全側に立ってこれを受け止めても、病気の早期発見・治療に役立つという利益が遥かに上回ることは事実です。しかしX線診断のように、10~50 mSv以下の低線量被ばくによる発がんの可能性、および発がん率の推定法には、いまだ定説がないことも事実です。
国連科学委員会報告書では胎児の奇形発生の最小線量は250mGy(14-18日)、500mGy(50日)という報告があります。通常ここまで被ばくすることは考えられません。以下に例を示します。
■胎児の被ばく(ICRP Publ.62より)
- もっともよく行われる胸部撮影 … 0.01 mGy以下
- 腹部単純撮影 … 2.9 mGy
- もっとも多いと思われる骨盤CT … 26mGy