TOP > 診療科・部門 > 循環器内科・不整脈科 > 主な疾患と治療法

診療科・部門

循環器内科・不整脈科

経皮的冠動脈形成術(PCI)

経皮的冠動脈形成術(PCI)

動脈硬化で狭窄あるいは閉塞している心臓の血管(冠動脈)を、体外から挿入したカテーテルを使用して開大する治療法で、一般に「PCI(Percutaneous Coronary Intervention)もしくはPTCA(Percutaneous Transluminal Coronary Angioplasty)」と呼んでいます。

バルーン(風船)を用いて開大する方法、ステント(金属製のコイル)を血管内に植え込む方法、高速回転式のドリルを使って血管内を掃除したりする方法などがあります。

具体的には

通常の冠動脈形成術は、1泊2日から3泊4日で行われます。カテーテルを挿入する動脈は、通常は右あるいは左の手首の血管(橈骨動脈)ですが、複雑な手技を要する場合には、太ももの付け根の動脈(大腿動脈)を使うこともあります。

手術時間は拡張する病変の性状により異なりますが、早ければ30分程度であり、遅くとも90分程度で終了と考えて下さい。

一か所の病変拡張を行った場合に実際にかかる医療費用はおよそ1,000,000円前後で、3割負担であれば300,000円、1割負担で100,000円程度の自己負担分になります。高額療養費制度を事前に申請しご提示いただくと、一般の方では90,000円前後のお支払いで済みます。また高齢者一般の方では、50,000円程度のお支払いとなります(平成27年4月時点、詳細は医事課にお尋ねください。)。当院の冠動脈形成術件数は累積10,000例を超え、この症例数は石川県で最多となります。

それでは、狭心症に対する基本的な冠動脈形成術の実際の手順を説明しましょう。

実際の冠動脈形成術の手順

  1. 前もって採血により、腎機能障害、肝機能障害、貧血などのチェックをさせていただきます。
  2. 病室にて待機し、手術30分くらい前にカテーテルを挿入しない方の前腕に点滴をいたします。術前の軽いお食事は問題ありません。尿道に排尿用のカテーテルは挿入しません。
  3. カテーテル検査室へ看護師と共に車椅子で移動。
  4. カテーテル検査室に入室し、カテーテル検査台に仰臥位(あお向け)で横になります。
  5. 看護師または臨床工学技士が心電図を胸に貼付します。
  6. 手首の刺部位の消毒をおこないます。
  7. 体の上に、デッキとよばれる清潔な布を掛けます。
  8. 手首の部位に局所麻酔をした後に、血管にシースと呼ばれる鞘の様な短いチューブを挿入します。径が2mmのチューブですので、挿入時に少し痛みがあります。
  9. このシースの中を、ガイドワイヤーと呼ばれる柔らかいワイヤー血管に沿って進行し、心臓まで到達します。
  10. このガイドワイヤーに沿って冠動脈形成術に用いるガイディングカテーテルが心臓の冠動脈の入り口に留置されます。
  11. 造影剤を冠動脈に注入して、狭窄部位を確認します。
  12. 冠動脈形成術用の細くて、先端の柔らかいガイドワイヤーを狭窄を認める血管に挿入します。 このガイドワイヤーに沿って、血管内超音波カテーテルを挿入して、狭窄となっている冠動脈の血管径、病変長、動脈硬化性状を評価します。これにより狭窄部を拡張する道具を決めます。
  13. 病変に応じたバルーンカテーテル(風船)を挿入し、病変部の動脈硬化による狭窄を押しつぶします。バルーンカテーテル拡張中は、一時的に冠動脈の血流が遮断されますので軽い胸部圧迫感を自覚する場合があります。
  14. バルーンカテーテルのみで狭窄が十分に拡張されない場合には、さらに冠動脈ステントと呼ばれる網目状のコイルを狭窄血管の内側から拡張して留置します。このステントは腐食することもはずれることもありません。
  15. 最後に血管内超音波で病変の拡張具合をチェックし、また血管造影を行います。
  16. すべてのカテーテルを抜きます。
  17. 手首から挿入されたシース(チューブを抜きます。その際に止血のため手首に圧迫帯を巻き、この圧迫帯を空気で拡張して、圧迫止血します。この圧迫帯は、時間経過とともに空気の圧力を下げますので、痛みが強い場合は、看護師に申し出て下さい。
  18. 車椅子で病室に戻ります。
  19. 帰室後は、心電図をチェックいたします。
  20. 冠動脈形成術後は、脱水にならないように十分な水分を摂ってください。病室での歩行は自由です。
  21. 約6時間後に、手首の圧迫止血帯をはずします。
  22. 点滴は、術後の脱水を予防する目的に翌朝まで続ける場合があります。

バルーン

1.血管が狭くなっている部分に、カテーテルによりバルーンを進めます

2.バルーンをふくらませ、狭くなっている部分に圧をかけて広げます

3.バルーンを抜去したあと。血管が拡がりました

ステント

1.血管が狭くなっている部分まで、ステントをのせたバルーンを進めます

2.バルーンをふくらませることで、ステントも拡がります

3.バルーンを抜去したあと、ステントは血管を拡げたままの状態を保ちます

バルーンとステントによる治療例(冠動脈造影)

1.冠動脈左前下行枝に90%の狭窄病変が存在します(白矢印)これが治療のターゲットです

2.狭窄部分にバルーンを進め、膨らませます
(実はバルーンにステントを併用しているのですが、現在のステントはX線では写りにくいので写真でははっきり見えません)

3.狭窄していた血管はきれいに拡がりました

ロータブレーター

高速回転式ドリルといっても、カテーテルを通して血管の中を通るくらいの非常に小さなミニ・ドリルです。これはロータブレーター(Rotablator.....登録商標)と呼ばれる新しい治療手段です。

図に見えるように、ラグビーボールのような形をした部分がドリルになっており、その先端部分にはダイアモンドが埋め込まれています。ラグビーボール状の部分が高速で回転することで、血管の狭くなっている部分を削って掃除し、血液が流れる通路を作ります。通常バルーン治療と併用し、血管の治療をより確実なものにします。

ロータブレーターは、バルーンだけでは拡げることが困難な硬い狭窄病変などの場合に用いられます。この治療を選択するにあたっては、専門的かつ高度な臨床判断が必要です。

また、医師ならば誰でもロータブレーター治療をできるわけではなく、豊富な臨床経験を有し専門訓練過程をマスターし、正式な認定を受けた循環器専門医に限られます。


先端部が高速回転します

ロータブレーターによる治療例(冠動脈造影)

1.冠動脈左前下行枝、対角枝分岐部に狭窄病変が存在します (白矢印)これが治療のターゲットです

2.ロータブレーターの小さなドリルが左前下行枝を治療中しているところです

3.狭窄していた血管はきれいに拡がりました

ダイアモンドバック

当院では硬い狭窄をきたした石灰化した冠動脈を治療するために、ダイアモンドバックという特殊な医療機器を使用しています。これは、血管の内側に小さなダイヤモンドの粒がついた器具を入れて、高速で回転させて硬い部分を削り取る治療法です。この治療の利点は、硬くなった部分だけを削るので、周りの柔らかい血管を傷つけにくいことです。

当院ではロータブレーターという別の治療法も行っており、患者様の病状に合わせて最適な治療法を選択しています。ロータブレーターは、ダイアモンドバックと同様に石灰化した冠動脈を削る治療法です。

当院には、これらの治療に熟練した医師がおり、患者様一人ひとりの状態を丁寧に評価し、最適な治療を提供しています。

血管内石灰化破砕術(IVL)

高度石灰化病変に対する血管内石灰化破砕術(IVL)は、従来の治療法では困難だった症例に有効な最新治療です。当院は、このIVL治療が可能な数少ない病院の一つです。経験豊富な専門医が、患者様一人ひとりの病状を的確に診断し、最適な治療計画をご提案いたします。IVL治療では、血管内から衝撃波を照射することで、硬くなった石灰化病変を安全かつ効果的に破砕し、血流を改善します。

DCA

DCA(方向性冠動脈粥腫切除術)は、心臓の血管(冠動脈)内にできた粥腫(プラーク)を直接削り取る特別な治療法です。カテーテルの先端に取り付けられた特殊な刃を使い、血管の内側から粥腫を切り取ります。

DCAの最大の特徴は、粥腫を直接取り除くことができる点です。これにより、血管の狭まりを効果的に改善し、血液の流れを回復させることができます。特に、柔らかい粥腫が主体で、狭くなっている部分が限られている場合に有効です。

治療は、まずカテーテルを冠動脈内に挿入し、狭窄部位でカテーテル先端の刃を回転させ、粥腫を少しずつ削り取ります。削り取られた粥腫は、カテーテル内に回収され、体外へ排出されます。

DCAは、他のPCI治療法(バルーン拡張術やステント留置術など)と組み合わせて行われることもあります。当院では、患者様の状態を詳しく検査し、最適な治療法を選択します。DCAは特殊な治療法ですが、当院では数多くの治療実績があります。

エキシマレーザー

エキシマレーザー治療は、心臓の血管(冠動脈)が詰まったり狭くなったりした時に行う、特別なカテーテル治療です。カテーテルの先端から非常に短い波長のレーザー光を照射し、血管内の詰まりの原因となっている粥腫(プラーク)や血栓を蒸発させて取り除きます。

この治療の大きな特徴は、従来の治療法では困難だった、石灰化が強い病変や、血栓が多く詰まっている急性心筋梗塞などの緊急性の高い病変にも対応できることです。また、レーザー光は非常に精密に照射できるため、周囲の正常な血管組織を傷つけにくいという利点もあります。

当院では、豊富な経験を持つ医師が、患者様の状態に合わせて最適な治療法を選択し、安全かつ効果的なエキシマレーザー治療を提供しています。

薬剤溶出性ステント

バルーンによる治療にしてもステントによる治療にしても、体に負担をかけることなく比較的簡単に治療が行える点が長所ですが、残念ながら数ヵ月後に再び冠動脈の同じ場所が狭くなる再狭窄が少なからずあるという点が欠点でした。この再狭窄という現象は動脈硬化が同じ場所に再び起こって生じるのではなく、拡げた同じ場所で新たな血管内膜が血管内で増殖してくるために生じるものです。

2004年8月から、この内膜増殖を抑制する薬剤がステント表面にコーティーングされた薬剤溶出性ステントが登場しました。このステントの登場により再狭窄は5%前後に抑えられ、長年悩まされ続けてきた再狭窄という問題がほぼ解決されました。この結果、従来冠動脈バイパス術の適応と考えられてきた難しい病変もステントによる治療が可能となってきました。現在では特殊な状況を除けばこの薬剤溶出性ステントが治療の第一選択となっています。

しかしながら、どんな治療でも欠点は存在するもので、この薬剤溶出性ステントでは慢性期にステント内で血栓が生じやすい可能性があり、そのために症例によって最低1~12ヶ月間は血栓予防薬を服用する必要があります。観血的手術を予定している場合や血栓予防薬で副作用の出る場合には残念ながらこの薬剤溶出性ステントを使うことができません。この場合は従来のステントを使用することになります。

危険性は?

開胸手術によらない非常に有効な治療法ですが、万能ではありません。病変部があまりに硬かったり、冠動脈の屈曲蛇行が著しかったりするとバルーンやステントが病変部を通過せず不成功となる場合があります。

いったん広がった血管が再び元の状態に戻ってしまったり、あるいは逆につまってしまったりする場合もあります。このような場合は、再度PCIを行いますが、くりかえしつまったり、不成功で終わった時は緊急もしくは待機的に手術を行わなければならなくなる可能性もあります。

また頻度としては非常にまれですが、冠動脈破裂といった併発症も緊急手術の対象となります。

診療科・部門
ハイブリッド手術室