
新年あけましておめでとうございます。皆さま方には年末年始をお健やかにお過ごしいただけたでしょうか?
令和5年の干支は“卯‥ウサギ年”です。でも卯年と書いても兎年とは書きません。子供の頃から不思議でした。私の父は(もう鬼籍に入っておりますが)卯年生まれで、幼い頃になぜ“卯”なのか聞いたことがあります。旧制中学の時に「“干支”とは紀元前の中国で暦を表すときに木星の動き(公転周期12年)で数えていた。十二支は動物名であるが実は植物が芽吹いて熟して枯れて種を残すまでを表しており、“卯”とは草木が地表に現れて繁茂する様子を表しているのだ」と教わったことがある‥と教えてくれました。その後漢和辞典で調べてみましたが誤りではないようです。動物を充てているのは庶民でも理解しやすいようにしているらしい‥‥由来はともかく新しいことが芽吹いて成長することを期待させる干支であり縁起がよろしいのではないか‥と思います。ついでになりますが、いにしえの中国の影響はアジア圏に広く及んでおりタイやベトナムでも干支の文化はあるそうです。ロシアにも一部伝わっており干支に出てくる動物は日本と同じ、一方タイでは兎は入っておらず猫になっている…とか。この話は研修目的で来日された中国の方から教えてもらった情報です。
置きが長くなりました(年寄りは話が長くていけません)。令和5年の心臓血管センター金沢循環器病院を展望するにあたり、まずは令和4年を振り返ってみます。新型コロナ感染症はSARS・MARSの時と異なり3年が経過しても一向に終息する気配がありません。次々と変異株が出現し感染も第8波(?)に入りました。ウィルスですから変異株出現は当然とは思いますが、なかなか寄生種である人類と仲良くしてはくれません。私共も昨年初夏までは何とか院内発症を食い止めることができましたが、8月・11月と複数名の感染者を出してしまう事態になりました。当院の職員は、医療者としての矜持をもって日々の行動に注意を払ってくれておりましたが、昨年夏以降は同居するお子さんが家庭外で感染→それが職員にも感染→標準予防策の網をかいくぐって病棟での感染に至ったものと考えられます。院内感染対策チームを総動員して対応につとめましたが、見えざる敵ほど恐ろしいものはありません。今後本症が2類相当から5類に変更されたとしてもまだ気を緩めることはできないと思っています。
令和5年の展望に移ります。当院は常に成長のためのスキーム作りを考えております。医療業界は規制に強く縛られたサービス業ではありますが、新しい価値の提供を職員全体で協業して作り出し続けております。ここ数年来、新しい診断法の普及(例えば、心筋虚血診断法の提供など)、新しい治療法の提供(例えば、慢性閉塞性冠動脈病変に対するカテーテル治療成績の向上や高齢者心臓弁膜症患者さんに対する新たな血管内治療‥‥より低侵襲の心臓外科手術治療‥‥長期入院中の患者さんに対する生活の質の確保‥など)に努めてまいりましたが、本年もその歩みを継続させます。詳細につきましては誌面の制限もありますので当院ホームページをご参照下さい。私たちにできるサービスは患者さん向けだけではありません。病院は常に人員不足に悩まされています。給与を上げることは短期的には有効でも医療の質を維持することにはつながりません。これからの医療を担う若い方々に「今までできなかったことをできるようにする」修練の場を提供することで人材確保につなげる施策を行っております(昨年末に北陸とは無縁の医師の方を仲間に迎えることができました)。経営の専門家でもないのに申し上げるのは僭越ではありますが、「当院の強みを宣伝する=セールス」だけでは生き残りが難しく、「売れる仕組みをつくること=マーケティング」が重要ではないか‥と思っております。
当院では名村CEOのリーダーシップの下で昨年10月に新たな病院理念を作成しました。これもホームページをご覧いただきたいのですが、◆究極のミッション「循環器病からの解放」◆ビジョン「すべてがプロフェッショナルな病院」と設定しました。日本人お得意の精神論ではありません。すべての職員の属性(=共通する目標・特徴など)をここに定めて地域から信頼される病院になることを目指すことの意思表明です。そのためには職員の皆さんの仕事に対する満足度を高めなければなりません。当院では昨年より「心理的安全性を高めるプロジェクト」を医局長主導のもとで実行しております。まだ緒に就いたばかりではありますが、必ず実らせますので人間関係に悩んでおられる医療者の方がおられましたら是非当院の門を叩いて下さい。
最後に干支の動物である兎には穏やかで優しいイメージがあります。今年こそ平穏な一年であることを祈念して筆をおきます。
心臓血管センター金沢循環器病院
病院長 池田 正寿