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心不全サポート・緩和ケアチーム SP結成

心不全サポート・緩和ケアチーム SP結成
『~心不全を抱える方へ これからのあり方を私たちと一緒に考えていきませんか?~』

みなさんは“心不全”という言葉を聞いたときにどういった印象を持たれますか?

“がん”と聞くと治るものなのか、あとどれくらい生きられるのか、手術や抗がん剤など治療はどうするのか、お金はどれくらいかかるのか、“がん”のイメージに基づく色んな考えあるいは疑問や不安がわいてくると思います。それに比べて“心不全”と聞いたときになにがどう悪くて、どういう治療が必要なのか、今後どうなっていくのかイメージがわかないというのが多くの方の印象ではないでしょうか。

そのような中で心不全と診断された患者さんやご家族が、より安心して治療を行い、よりよい状態で日常生活を営んでいただくために各職種のスタッフを選任し心不全サポートチームを結成しました。多職種によるチーム医療の利点を生かして心不全の患者さんの状態に合わせた必要なサポートや情報提供を行ってまいります。

また最近いわゆる『終活』といった人生の最期の過ごし方も話題になっています。実際に心臓の病気によって最期を迎えるときにも様々な問題があり、緩和ケアが必要になるケースも多く、どのような治療を行うかはどのような最期を迎えたいかといったご本人やご家族の意向が大事になります。心不全サポートチームはこの問題に対しても取り組んでいきます。

名は体を表すといいます。呼びやすく、目的に則した名前があった方が、この取り組みをよりよくできるのではないかと思いチームの名前を考えました。いくつかの候補の中からチームメンバーで選考し、名称は『SP』としました。正式名称は“Support and Palliative care for Heart Failure”。意味は“心不全患者さんへのサポートと緩和ケア”です。

当院は循環器専門病院として地域の心不全患者さんに対して十分な医療や情報を提供する責任があります。そのために患者さんに寄り添える体制を今回のチーム結成でさらに推し進めて参ります。お困りの際にはいつでもスタッフにお声掛けください。ご質問・ご意見も大歓迎です。私たちが、病と向き合う患者さんとご家族の一助となれれば幸いです。

心不全とは

2017年に日本循環器学会から心不全の定義が次のように発表されました。
【心不全とは、心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気です。】
「生命を縮める病気」とはっきり指摘されているところが重要なポイントで、実際に心不全を含む循環器疾患の死亡数は国内ではがんに次いで第2位を占めます。さらには心不全による5年生存率は50%とその予後についても決して良くはありませんが、こうした事実と心不全の怖さがみなさんに知られていないのが現状です。

また現在高齢化社会の進行にともなって心不全患者は増加を続けており、社会的に大きな問題となっています。2015年に心不全のために入院となった患者さんは全国で約25万人おられ、2030年には外来通院などすべてを含めた心不全の患者さんは約130万人となると推定されています。

心臓が悪くなる原因は様々ですが、多くの場合は食事、運動、喫煙などの生活習慣や遺伝的な体質から、高血圧、高脂血症、糖尿病などを発症し、狭心症・心筋梗塞・弁膜症・心筋症・不整脈などを経て心不全状態へと進行します。

心不全は慢性の病気であり、ひとたび入院治療を行えばすっきりよくなる病気ではありません。入院治療はいったん悪くなってしまった状態の改善を図り、今後の方向性を決める言わば治療のスタート地点です。患者さんが退院してからどのように治療を継続し、どのような生活を送るかがより重要となります。心不全という病気とうまく付き合っていく必要があるのです。

心不全多職種チーム

従来、医師は患者さんの状況にあわせて薬物治療や手術(カテーテル治療、開心手術など)を行ってきましたが、心不全に対してはそれだけでは不十分です。塩分や水分を多く摂りすぎたり、肺炎や貧血、腎不全などその他の病気が加わった時に心不全が悪くなることが多いので、そのような要因に対する注意(食事療法、感染症の予防や早期の対処など)も必要となります。

また正しい方法で行う適度な運動が心不全患者さんの症状や予後を改善することも知られています。自宅での酸素投与や特殊なマスクによる治療が必要となる場合もあり、生活の基盤である在宅や施設での看護や介護も欠かせません。

これらの問題に対応して、心不全と診断された患者さんやご家族が病を持ちながらも、本人らしくよりよい状態で生活を送るためには多方面からのアプローチが必要となります。この多方面からのアプローチを有効に行うためには医師、看護師、薬剤師、栄養士、理学療法士(リハビリ担当)、メディカルソーシャルワーカー(介護サービスなどの調整手配)など様々な分野の専門家が患者さんやご家族と協力して治療にあたる必要があります。

学会からも様々な治療のガイドライン(大まかな治療の指針)が公表されていますが、あくまで治療の骨組みにすぎないので、そのまますべてを一人ひとりの患者さんに当てはめることはできません。心不全サポートチームによって多方面からの隙のないきめ細やかなアプローチを行うことで、ガイドラインに基づいた標準的治療という骨格を基に、患者さん本人の意向や生活にあわせて肉付けをしたオーダーメイドの治療を提供することができるようになると考えています。

心不全に対する緩和ケア、人生の最終段階における治療について

心不全の治療においても人生の最終段階における医療や緩和ケアが現在大きな問題になってきています。

緩和ケアというと、日本人の私たちにとってはがん治療での疼痛の緩和がまず頭に浮かぶと思いますが、実はWHO(世界保健機構)によると緩和ケアが必要となる疾患の第1位は循環器疾患で、がんはそれに次いで2位となっています。心不全は徐々に進行する病気であり、心不全の最終段階には多くの患者さんが呼吸困難や高度の疼痛、または気分の落ち込みなどを認めることがわかっており、緩和ケアが必要となります。しかしながら心不全に対する緩和ケアは社会全体にも医療従事者にも未だあまり知られておらず、治療も標準化されていないために、満足なケアが行われていません。心不全サポートチームはこの問題に対しても取り組んでいきます。

人生の最終段階にむけてどのような治療をして欲しいのか、またはして欲しくないのかなど、可能な限りご本人の意思を確認・尊重し、ご家族も含めて十分に検討を重ね、患者さんやそのご家族の方が残された時間をできるだけ苦痛が少なく、また本人らしく過ごしていただけるように寄り添っていきたいと考えています。

SP担当医師
辻本 大輔