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診療科・部門

心臓血管外科

主な疾患と治療法

心筋梗塞・狭心症

近年我が国においても問題になっている虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)は、冠動脈が狭くなったり塞がったりして、心臓に送られる血液(栄養分や酸素などが含まれている)が不足することが原因で起こります。
冠動脈の狭窄や閉塞は、動脈硬化や、血栓(血液が固まったもの)が血管につまることが主な原因です。一部には冠動脈が一種のケイレンのような異常収縮を起こすことが原因の場合もあります。
当院を受診される患者さんの病気で最も多いのが、この虚血性心疾患です。

治療

虚血性心疾患の治療法の一つとして冠動脈バイパス手術があります。冠動脈狭窄の場所が危険な所でカテーテル治療が行えなかったり、閉塞や狭窄が多発している場合に完全な血行回復を図るために行います。
年齢、糖尿病による全身の病変の程度、脳血管障害、腎機能を調べて手術が選択されます。

冠動脈バイパス術

人工心肺を使用し(on-pump )心臓を止めて冠動脈にグラフトを接ぐ方法と人工心肺を使わず(off-pump)心臓を止めないで吻合する方法があります。

最近はoff-pump 手術を安全に行えるようになり、当院では平成14年より単独冠動脈バイパス術は100%off-pumpで施行しています。

心臓機能の悪い人、心臓の裏側に吻合する場合など人工心肺の補助下で手術した方が安全な例もあり、術前に十分検討し決めています。

動脈グラフト使用

自分の動脈を使った方が足の静脈を使うより長期間開存することが解り、内胸動脈(心臓の前にある)、橈骨動脈(前腕)、胃大綱動脈(胃の下にある)などを使います。

内胸動脈、胃大綱動脈は心臓手術の創で遊離でき、使用します。橈骨動脈は前腕から別の創で取ります。これらの動脈が使えないときには足の静脈も使います。

完全血行再建

最近、内科的にバルーン拡張やステント留置が行われ、この場所に病変が進行してバイパスになる症例が増加しています。

心臓の筋肉はスポンジのように血流を多く含むことができるため、一本の動脈に閉塞や狭窄が生じても他の冠動脈からの血流により生きていくことができます。そのため手術の際はできるだけ多くの動脈にバイパスをした方がたとえ本来の動脈が閉塞したり、グラフトが詰まっても心臓の血行が保たれることが多いので手術時にはできるだけ完全に再建します。

大動脈瘤

胸部大動脈瘤は、心臓から上向きに出た「上行部」、3 本の血管分枝をもつ大きく曲がった「弓部」、背骨に沿って下方に向かう「下行部」に、また腹部大動脈瘤は腎臓より下方にできやすいといわれています。
真性大動脈瘤の多くは破裂しない限り無症状ですが、大きくなっていくと周囲の組織を圧迫して、胸部大動脈瘤なら咳、血痰、胸痛、背中の痛みが、腹部大動脈瘤なら腰痛や腹痛などがみられます。すでにこの段階は破裂する危険性が高まっている状態で、大動脈瘤が大きくなって破裂すると急死する危険性があります。
一番恐ろしいのは大動脈瘤の破裂による大量出血で、これによって年間に多くの人たちが命を落としています。大動脈瘤は、もし破裂したらその死亡率は80 ~90%にも上るといわれています。大動脈は、高い圧力(血圧)で全身に血液を送っているため、もし1 箇所でも損傷したら大出血となり、脳や脊髄、肝臓、腎臓など重要な器官への血流が障害されてしまいます。
いったん動脈瘤ができてしまうと、自然に縮小することはなく、有効な薬物療法もありません。そのため、大動脈瘤は破裂する前に治療するのが原則です。

治療

大動脈瘤の治療法として、胸部あるいは腹部を切り開いて動脈瘤を切り取り、その代わりに人工血管を縫い付けて置き換える手術(人工血管置換術)を行うのが一般的です。
しかし、この手術は胸部の場合、一度心臓を止める必要があり、また肺などに合併症を持つ患者様や再手術となる患者様には負担も大きく危険性もあります。腹部の場合でも一度手術をされている患者様などは時間もかかり合併症の危険性も高くなります。
そのような患者様に対して、最近では、血管に細い管(カテーテル)を挿入して人工血管を患部に装着する「ステントグラフト内挿術」が普及し始めています。 ステントグラフトとは,人工血管にステントといわれるバネ状の金属を取り付けた新型の人工血管で、これを圧縮して細いカテーテルの中に収納して使用します。脚の付け根を4~5cm 切開して動脈内にカテーテルを挿入し、動脈瘤のある部位まで運んだところで収納したステントグラフトを放出します。胸部や腹部を切開する必要はありません。ステントグラフトによる治療は、手術ではどうしても必要な切開部をより小さくすることができ、所要時間も短いので、身体にかかる負担が少ないのが特徴です。挿入されたステントグラフトは、金属バネの力と血圧により広がって血管内壁に張り付けられるので、外科手術のように直接縫いつけなくても自然に固定されます。
大動脈瘤は切除されず残りますが、瘤はステントグラフトにより蓋をされることで血流が無くなり、次第に小さくなる傾向がみられます。
また、たとえ瘤が縮小しなくても、拡大を防止することで破裂の危険性がなくなります。
このステントグラフトによる治療法は今までの開胸、開腹手術に比べても危険性はほぼ同等と言われています。また、大きく開ける必要がないため、手術の翌日から歩行、食事も可能です。患者様の身体への負担も少ないため入院期間も短くて済みます。
しかし、誰にでも可能と言うわけではなく、血管の蛇行の強い人、動脈瘤の位置、動脈瘤内部の状態等によりステントグラフト治療ができない場合もあります。また、比較的新しい治療法のため、長期成績はまだわかっていません。
そのため、ステントグラフトを挿入された患者様は術後半年から一年毎の定期的な検査が必要です。その上でずれや破損が見つかった場合は追加の治療が必要となる場合もあります。
当院では開胸、開腹手術はもちろん、胸部、腹部ともステントグラフト治療認定施設となっており、患者様に合わせた適切な治療法を行っています。動脈瘤について相談したい場合はお気軽に外来に受診されるようお願いいたします。

弁膜症

弁膜症は弁が障害を受けただけでは症状はありません。しかし、心臓には常時負担がかかっており徐々に心臓は弱ってきます。そのために徐々に呼吸苦、下腿浮腫、不整脈等の心不全症状が出現します。また不整脈が出てくる場合、その不整脈が原因で心源性血栓を形成し、脳梗塞から突然死となる場合もあります。
このほかに大動脈弁狭窄症では特有の症状として循環不全により失神を来すこともあります。薬物療法を続けても症状が悪化する場合、外科的治療(手術)が必要ですが、心機能が低下してからでは手術しても心機能が改善しない場合もあり、適切なタイミングでの外科治療が必要となります。 以下に代表的な弁膜症の手術適応(至適手術時期)について列 記します。

大動脈弁狭窄症(AS)

近年の高齢化社会において最も増加している弁膜症です。以前はリウマチ熱による原因が主でしたが近年は動脈硬化性(高齢化による変性)が最も多くなっています。 AS は症状が出現してから致命的状況になるまで非常に短く、突然死の原因ともなっており早急な治療が必要となります。また手術により予後も著明に改善、症状もはぼ消失し治療としては効果が顕著にみられる手術でもあります。下表に日本合同研究班におけるガイドラインからAS 手術適応を示します。
AS はタイミングを逸すると突然死を含む致命的状況となる一方、治療により劇的改善がみられる症例ですので心雑音が聞こえる症例においては症状がなくても早急な検査をお勧めすべきと考えられます。

大動脈弁閉鎖不全症(AR)

AR の症例も一見心機能は悪くありませんが、一旦悪くなると不可逆的状態となってしまう場合も多く、早急な手術が必要なことも少なくありません。また、上行大動脈や基部の拡大を来している場合も多く、基部置換や上行大動脈置換も合わせて行うことも良くあります。

僧帽弁閉鎖不全症(MR)

近年、AS に次いで多くみられる弁膜症です。心筋梗塞後遺症や慢性心不全にて心拡大を来し、僧帽弁輪の拡大や腱索断裂を来したりすることが原因と考えられます。また感染性心内膜炎による弁破壊も見受けられます。MR の問題点は逆流があるために検査上心機能が悪く見えないことにあります。左室から左房に血液が逆流する分、心収縮が良好であるため心不全と判断されないまま放置され、突然死を来たす場合も散見されます。また、左房拡大により心房細動を来すことも多く、そのため脳梗塞等を起こすことの多い弁膜症でもあります。
図3 にあるように無症候性のMR であっても高度のものは非常に予後が悪く、心収縮が保たれていても突然死を来すことがあります。
MR に対しては弁破壊の程度により自己弁温存(弁形成術)か可能となります。高度逆流をそのまま放置しておくと弁破壊がさらに進み、形成困難となる場合もあり、早急な手術が予後改善に必要不可欠となります。当院でのMR に対する弁形成術の割合は約84%となっています。

僧帽弁狭窄症(MS)

以前に比べてリウマチ熱の患者が減り、患者数は減少傾向にあるかと思われます。しかし症状は最も悪く、慎重な手術適応が望まれます。心房細動等の不整脈が出現するとさらに心機能が悪化するため、その前の手術治療が効果的です。

弁膜症は軽症であれば内服によりコントロール可能ですが、弁機能が悪化した場合手術しか治療法はありません。心機能が低下してからでは体の負担も大きくなります。傷んだ弁は人工弁に交換できますが、傷んだ心臓は交換できません。心機能が低下する前に適切な手術を行うことが心機能の改善、ひいては生命予後にも影響を及ぼします。弁膜症の方は心エコーでの定期的な検査を行い、手術のタイミングを逃さないことが大切です。

リンパ浮腫

リンパ管は心臓から拍出された血液の1/10が組織間液として血管外に漏出した液を回収する脈管です。これが閉塞したり、生まれつき欠損している人にリンパ浮腫が生じます。
■先天性リンパ浮腫:生まれつきリンパ組織の発育が悪いため生じます。小児期、成人後に種々の症状が現れます。
■後天性リンパ浮腫:手術後に発生することが多く、とくに上肢は乳がん手術後、下肢は子宮・卵巣がんの手術後に放射線照射を合併した人に生じやすく、最近増加しています。

症状
腫れ
ゆっくりと皮膚、皮下にむくみが現れ一進一退しながら段々ひどくなります。
腫れが急に出た時に下腿、大腿内側・後面に緊満感を来します。浮腫により変形性膝関節症が悪化します。
皮膚の変化
最初は緊張して輝いています。指で圧迫すると凹む。時間が経つと段々固く、厚くなり、皮膚のしわが浅くなり消失します。
圧迫で凹まなくなり最後には象の皮膚様になります。
炎症・蜂窩織炎
虫さされ、草葉による擦り傷、水虫などにより下肢全体が急に発赤、熱感を持ちます。
全身に高熱、悪寒を生じます。原因不明で季節の変わり目に発症することもあります。
静脈瘤
症状
  • 下肢静脈瘤のおもな症状は、ふくらはぎのだるさや痛み、足のむくみなどです。これらは特に長時間立っていた後によく現れます。また、夜の寝ているときにおこる“ こむら返り(足のつり)” も下肢静脈瘤が原因でおこることもあります。
  • 症状が重くなると皮膚の循環がどんどん悪くなるため、湿疹や色素沈着などの皮膚炎をおこす事があります。皮膚炎が悪化すると潰瘍ができたり、出血することがあります。
治療
  • 下肢静脈瘤の保存的治療法には、弾性ストッキングを使う圧迫療法、注射で静脈を固める硬化療法があります。また手術療法には、静脈を引き抜くストリッピング手術と、レーザーで静脈を焼く血管内レーザー治療の2つがあります。それぞれ良い点と悪い点があり、治療後の痛みの程度や治療費に差があります。
  • 大切なことは静脈瘤のタイプと程度を正しく診断し、ご本人の年齢や生活習慣と希望をよくうかがって、適切な治療法を選択することです。また、どれか一つで治療が可能なわけでなく、手術の後、しばらくはストッキングの着用は必要ですし、さらに硬化療法を追加したりすることもあります。
静脈抜去手術(ストリッピング手術)、高位結紮術
  • 静脈抜去手術(ストリッピング手術)、高位結紮術は静脈瘤の最も標準的な治療です。高位結紮術は多くの静脈瘤の原因となる鼠蹊部(足の付け根)部分の静脈を縛り、逆流を起こしている静脈の血流をなくします。また、ストリッピング手術は、逆流を起こしている静脈を抜き取る手術です。逆流を起こしている静脈は取ってしまっても何ら不都合はありません。
  • 当院では鼠蹊部3cm ほど切開し、静脈を結紮した後、さらに逆流を起こしている静脈の一部(逆流を起こしている枝を含めた部分)を抜去する治療法(部分ストリッピング)を行っております。
  • 部分ストリッピングでは、大腿内側の膝下に2cm ほどの切開を行います。基本的に腰から下の麻酔(腰椎麻酔) で行いますが、必要に応じて、弱い全身麻酔も併用しています。1 泊2 日の入院治療で行います。
血管内レーザー治療
  • レーザー治療は、静脈の中に細いレーザーファイバーを通して、レーザーの熱によって静脈をふさいでしまう方法です。以前から行われているストリッピング手術は悪くなった静脈を手術で取り除きますが、レーザー治療は中から静脈をふさいで血を流れなくしてしまいます。
  • レーザー治療の良い点は、一言でいうと身体に優しい“ 楽な” 治療です。従来のストリッピング手術では足のつけ根を含め3~4 か所の切開しなければならないのに対し、レーザー治療では膝の内側に細い針を刺すだけで治療することができます。また、局所麻酔で行いますので、手術終了後、すぐ歩くことも可能です。
  • しかし、すべての静脈瘤がレーザーで治療できるわけではありません。状態によって切開を行わなければならない時もあります。当院ではレーザー治療も1 泊2 日の入院治療で行っております。現在、北陸でレーザー治療が可能な施設は当院のみです。
硬化療法
  • 特殊な薬を静脈瘤に注射して血液の流れを遮断する治療法です。血管内レーザー治療、ストリッピング手術と併せて行うこともあります。麻酔の必要ありません。通常外来で行います。
弾力ストッキング療法
  • 下肢静脈瘤のすべての患者さんに着用をお勧めしています。特に、硬化療法・ストリッピング手術、血管内レーザー治療を受けられる方は、術後に病状に応じた強度のストッキングの着用が必要になります。
診療科・部門
ハイブリッド手術室