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新年のご挨拶

2021年 新年のご挨拶

昨年は新型コロナウイルス感染症に振り回された一年でした。患者クラスターが発生してしまった医療機関の皆さま、感染症指定医療機関にご勤務されている皆さま、発熱患者さんにまず対応されてきた開業医の皆さま…本当にお疲れ様でした。この原稿は旧年中に作成しておりますが、全国的に新規感染症患者さんが多発しております。全国民が感染拡大防止のために日々不断の努力を続けておられるとは思いますが、今年も油断のならない日々が続くのでしょうね。

昨年12月には英国でワクチン接種が始まった…との報道がありました。先行して投与が開始されたワクチンはmRNAテクノロジーで開発された初めてのものと聞いております。ワクチンと言えば生ワクチンか不活化ワクチンが当たり前でした。弱められてはいるとは言うもののウイルスそのものが体内に入っていたわけですから、それに比べて塩基配列情報のみが体内に入るので多分安全なものではないかな…と思います。ただ史上初という点で不安がないわけではありません。初物は体に良い…と言いますが、こればかりは別です。好成績を期待するばかりです。コロナウイルス感染症は(SARS・MERSを除いて)普通に経験する風邪の原因ウイルスです。SARSは2003年には終息、MERSは一部地域に限定的であるのに対して今回のCOVID-19がこれだけ猛威を振るうとは想定できませんでした。人類の歴史は感染症との闘いであった‥と言われていますが、21世紀の今でもそれは変わらない…と感じます。

新型コロナウイルス感染症が猛威を振るったことで様々な制約が課されました。当院でも多人数での会食制限や他県での学会・研究会への参加制限などを行いました。健康を守る砦としての医療機関の使命とそれを遂行するための事業継続計画(BCP)として当然のことではありますが、同時に基本的人権である「行動の自由」を制限することでもありました。人類の歴史は感染症との闘いであった…と申しましたが、また個人の自由を守ることとの闘いでもありました。世界の中には今でもこの基本的人権が守られていない地域があり、非難や批判が繰り返されています。しかし、非難や批判を行っている国家でも感染症蔓延の事態の前では個人の自由の制限を粛々と受け入れています。制限を行うことが結果的に将来の自分の安全を保障することになるので当然と考えますが、懸念されることもあります。昨年は「自粛警察」なる言葉もはやりました。また、医療従事者やその家族への根拠のない差別も問題となりました。安全・安心のためにどこまで自由の制限のハードルを下げるのか……例えば「犯罪の増加」を防ぐため街頭の「防犯カメラ」の設置をどこまで許容すべきなのか……例えば騒音が迷惑だから住居地域の中に保育園の開設許可を認めないで欲しいとか……皆さまはどうお考えになりますか?

個人の自由の制限は明日の生活にすぐには影響を与えませんが、新型コロナウイルス感染症による経済の停滞は日々の生活にすぐに影響を与えます。昨夏、国際通貨基金は2020年の世界の経済成長率は大恐慌以来の不況〈前年比4.9%減〉になると予測していました。世界は経済のグローバル化と規制緩和を善として受け入れてきたように思いますが、結果として一部の企業〈例えばGAFAなど〉が世界経済のルールを決めてしまうような世界になってしまったようにも感じます。それが全体の幸福につながっているならば良いのですが、資産が一部の層にだけ集中していくのであれば不幸以外の何物でもありません。今回の厄災は今までの経済の流れを止める方向に働きました。官から民への流れを否定するものではありませんが、不況である現状では国家による市場独占への対抗策や雇用促進策を迅速に進めていただきたい(経済の専門家でない私が言うのもお門違いですが)と願います。

さて、昨年は悪いことばかりではありませんでした。私の所属する学会もネットでの開催が行われました。従来は参加が叶わなかった学術集会も現地に赴くことなく参加できました。何といっても専門医資格更新のために必要な単位を得ることができたことはありがたく感じました。また、報道では全世界で環境改善が認められたとされています。昨春、ベネチアでは運河の透明度が増して底まで透けて見られるようになったとか、インドや中国でも大気汚染が劇的に改善した‥との報道もありました。これだけ見るとやはり経済と環境は対立するのか…と感じてしまいますが、環境改善は未来の私たちのために必須の課題です。数年来言われているグリーン投資の意義は実感できていませんでしたが、今回の厄災を通じてその必要性を強く感じた次第です。

今年は敢えて「あけましておめでとうございます」とは申しませんでしたが、来年はこの一文で始められることを祈っております。

心臓血管センター金沢循環器病院
病院長 池田 正寿